口腔内の病原微生物による感染症です。早めに適切な治療を行わないと重症化することも稀ではありません。口腔内の感染性疾患の原因菌の多くは口腔内の細菌であり、虫歯、歯周炎、抜歯後や口腔内の傷からの感染などが原因となります。誰もが発症しえますが、疲労時、高齢者、糖尿病、肝疾患、がん、ステロイド剤服用中、自己免疫疾患などを持つ人は、特に注意が必要です。
ヘルペス性口内炎
単純性ヘルペスウイルスによる初感染で、一般には無症状ですが、数パーセントがヘルペス性口内炎になります。大半の患者が小児ですが、大人にもみられます。
治療としては、消炎鎮痛薬のほか、抗ウイルス薬の投与、二次感染の予防策としての抗菌薬の投与などが行われます。また、うがい薬やトローチで口腔内を清潔に保ちます。
口腔カンジダ症
主にカンジダ・アルビカンスという真菌(しんきん:かび)によって起こる口腔感染症で、急性型と慢性型があります。口腔粘膜の痛みや味覚障害が生じることもあります。
急性型である偽膜性(ぎまくせい)カンジダ症は灰白色あるいは乳白色の点状、線状、あるいは斑紋状の白苔が粘膜表面に付着しています。この白苔をガーゼなどでぬぐうと剥がせますが、剥がした後の粘膜面には発赤やびらんが見られます。白苔が認められない萎縮性(いしゅくせい)あるいは紅斑性(こうはんせい)カンジダ症は、舌乳頭(ぜつにゅうとう:舌の粘膜にある多数の小突起)の萎縮や粘膜の紅斑が特徴で、偽膜性よりもヒリヒリとした痛みが強くなります。口角の発赤、びらん、亀裂のある口角炎もカンジダが原因になっていることが少なくありません(カンジダ性口角炎)。病変が慢性に経過した肥厚性(ひこうせい)カンジダ症では、白苔は剥離しにくく、上皮の肥厚を伴うようになります。
原因となるカンジダ菌は口腔内の常在菌の一種で、通常はある程度以上は菌数が増えないように他の菌と共存しています。しかし、副腎皮質ステロイド薬の投与や糖尿病、全身衰弱などによる免疫力の低下、唾液量の減少、長期間にわたる抗菌薬の服用などにより、常在菌間のバランスが崩れ、カンジダ菌が異常に増殖し、病原性を現すと発症します。
治療としては、口腔内の清掃、抗真菌薬を含むうがい薬や塗り薬を使用しますが、時に抗真菌薬の内服が必要となることもあります。
帯状疱疹
子供の時にかかった水痘のヘルペスウイルスが神経の付け根に残っていて、体調が悪い時などに、それが活性化して発症します。神経の支配する領域に沿って、発疹が多発します。広い範囲に帯状に発赤と水ぶくれが出ますが、必ず体の右または左側にだけブロック状に発生し、全身に広がることはありません。強い痛みを伴い、重症化するケースもあるので注意が必要です。
治療としては、抗ウイルス薬、消炎鎮痛薬の投与のほか、二次感染の予防として抗菌薬の投与などが行われます。また、うがい薬やトローチで口腔内を清潔にします。
なお帯状疱疹後には神経痛が残ることがあり、消炎鎮痛薬で効果の無い痛みに対しては、神経ブロック療法が必要になるケースもあります。
手足口病
ウイルスによる感染で、口の中に水ぶくれが出来て破れ、アフタ(中央が白く、その周りが赤い状態)になることに加え、手足に水ぶくれが生じます。
口の中と全身症状は軽く、特に治療をしなくても自然に治りますが、全身症状が強い場合は対症療法が行われます。
ヘルパンギーナ
ウイルスによる感染で軟口蓋(なんこうがい:口の中の奥の天井)から口峡部(こうきょうぶ:口腔と咽頭との境の部分)に発赤および多数の水ぶくれが出来、破れて小さなアフタ(中央が白く、その周りが赤い状態)となります。口腔の後方と咽頭に発症することが特徴的です。夏に流行しやすく、小児に見られることが多いのですが、稀に大人にも発症します。
治療は対症療法が中心となり、小児の場合は栄養・水分補給に注意が必要です。